スポンサーサイト
------
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
ペーパーバード 幸せは翼にのって
20120323

2010年/スペイン/2時間3分(レンタルDVD)
監 督 エミリオ・アラゴン
原 題 PAJAROS DE PAPEL/PAPER BIRDS
出 演 イマノール・アリアス ルイス・オマール
ロジェール・プリンセプ カルメン・マチ
フェルナンド・カヨ ディエゴ・マルティン
<あらすじ>
1930年代のスペイン。喜劇役者のホルヘ(イマノール・アリアス)は内戦で妻子を失い、相方エンリケ(ルイス・オマール)にも行方を告げず忽然と姿を消す。二人が再会したのは、戦争も終結した1年後。劇団での再起を考えていた矢先、二人は両親を失ったという少年ミゲル(ロジェール・プリンセプ)を団員として迎え入れ世話をする。ホルヘは亡き息子が忘れられず、ついミゲルにつらく当たってしまうが、ミゲルは着々と腕を磨く。世はフランコ独裁政権下。監視の目は劇団にも注がれるようになる。
<感想など>(ラストに関するネタバレを含みます。)
上に掲載した写真の三人は満面の笑みだが、物語では三人が同時にこうした笑顔を見せることはほとんどない。特に主人公ホルヘは終始額に皺をよせ、難しい表情だ。妻子が健在だったときも舞台以外では笑わず、息子への躾も厳しい。それが愛情からくる厳しさであることは、後の展開からもよく理解できる。
ミゲルを見て思い出したのが『ニュー・シネマ・パラダイス』の「トト」。好奇心むき出しの様子や、大人に対する態度が彼と重なった。けれども本作の少年ミゲルはトトのように無邪気な子どもではいられなかった。
ミゲルは時には子供であることを武器に、その時々を切り抜ける。そんな知恵者の彼にたくましさを感じる反面、可愛らしいとは思えなかった。表情が明るければ明るいほど、彼の過酷さに胸が痛んだ。
それはきっとホルヘの気持ちでもあるのだと思う。彼はどんな世の中でも子供は教育を受けるべき、子供は子供らしくあるべきだと考えている。その気持ちは冒頭で明らかだ。しかし当時は、子供を早く大人にさせようとする時世である。ミゲルも早く一人前の芸人になろうと、必死にホルヘにしがみつく。
ミゲルを邪険に扱うホルヘも、息子に対する躾同様、食事時のマナーや口のきき方など細かく注意をする。彼を父のように思うミゲルもその言葉に従う。つながりが見え始めた二人をさらに結びつけたのは、ミゲルがスクリーン上に母の姿を見つけ、初めて子供らしい顔をした時だった。ミゲルの母親を探し出し、すでに記憶をなくしてしまった彼女にミゲルの将来を約束するホルヘの表情は、これまでに見せなかった慈悲深さに包まれていた。
世の中は、独裁政権を打倒しようとする者、またこれを密告しようとする者が動き回る暗黒の時代。劇団内にも、総統暗殺を企む者や内偵者が影を潜めている。その中で喜劇を続けようとするホルヘたちの気概に惹きつけられる。ホルヘもエンリケも、長年コンビを組んでいる勘で、窮地をアドリブで切り抜けていく。さまざまな事情を抱えた人々で構成される劇団は、綱渡り状態ではあるが一つのファミリーのようだった。彼らが繰り広げる数々のショーは、大きなスクリーンで鑑賞したかった。
タイトルの「ペーパーバード」には、「幸せを乗せる翼」の意味が込められているのだろうが、ラスト前には散りゆく命を感じてしまった。悲観的過ぎるだろうが、それしか浮かばなかった。
けれども、後年のミゲルが登場し、広い観客席に見覚えのある面々が次々と姿を現したとき、ペーパーバードはやはり幸せを乗せるのだな、と思った。当時の彼らの想いが、長い年月をかけてここまで飛んできたのだな、と。
緑鮮やかな草原が、いつの世も、どこまでも広がっていけばいいのに、と思うラストだった。
trackback
コメント