月と蟹 : 夢の国・亞洲文化宮

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月と蟹

20111002



著 者: 道尾秀介
出版社: 文藝春秋
刊 行: 2010年9月

<あらすじ>
小学5年生の慎一は、放課後になると同級生の春也と連れ立って岩場へ行く。二人はともに転校生で、それぞれ家庭の複雑な事情を抱えていた。彼らはヤドカリをライターの火であぶり出して行う「ヤドカミ様」の儀式に夢中になる。慎一は、儀式で口にした願いが現実になることを恐れていた。やがて同級生の鳴海が仲間入りする。慎一は、鳴海の父親と自分の母親が度々会っているのを知っていたが、鳴海にはこれを話していない。彼はついに、あることをヤドカミ様にお願いする。

<感想など>
慎一は父の死後、母と共に、父方の祖父が暮らす海辺の町に転居。祖父昭三は、かつての海難事故で片足を切断、義足をつけている。昭三の過失により一人の女性が亡くなったが、それは慎一の同級生、鳴海の母だった。共に伴侶を亡くした男女がつきあい、その関係を子どもたちが感づいている…。何と整然とした設定だろう。人間関係がギクシャクするお膳立てはすっかり出来上がっている。

春也は大阪からの転校生。孤独だった慎一にとって、春也の存在は救いだった。ヤドカミ様の儀式に誘ってくれたのも、悪質な手紙に悩む慎一を慰めてくれたのも彼だ。そんな彼が親から虐待を受けていることに、慎一は心を痛め、何とかして救いたいと思う。けれども、鳴海と春也が近づいていくのは面白くない。慎一の、春也に対する感情の起伏は、物語の根幹だと思う。

3人には、生き物をいたぶっているという意識はない。彼らにとっては神聖な儀式で、死にゆく「ヤドカミ様」は崇高な存在なのである。このときだけは心の痛みを忘れ、陶酔感に浸ることができるのだ。こんなに貴重な場所は、家にも学校にもない。彼らの置かれた環境と心の闇を思わずにはいられない。

後楽園球場で巨人軍の原選手がサードを守っていた時代の話。著者の少年時代とかぶるのではないだろうか。当時の少年たちを、今、大人である作者が思い出しながら書いている。そう考えると、ここに描かれた彼らは、背景や内面を肉付けし、読ませるようにした子供の姿だと思えるのだ。ヤドカミ様の表現は確かにグロテスクだが、寧ろ、作者が体現している光景(書くにあたって作者はヤドカミ様の儀式をしたのでは?違っていたら申し訳ないですが)を想像する方が恐ろしい。

スポットライトをあびる3人の後方で、慎一をよく理解する祖父が存在感を示している。彼の子供たちに対する想いは、果たして通じただろうか。わかるのは大人になってからなのかもしれない。その一方で、存在感がほとんど感じられない慎一の母と鳴海の父にも、ストーリーがあるのではないかと思った。

144回直木賞受賞作。正直いって好きではないが、「静かな恐怖が舞い降りてきた」感覚に支配され、一気に読んだ。

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「月と蟹」 道尾秀介  :TK.blog

『月と蟹』  著者:道尾秀介  出版社:文藝春秋 <簡単なあらすじ> 小学5年生の慎一は父親が働く会社倒産をきっかけに、2年前に祖母の住んでいる鎌倉市に近い海辺の町に引っ越してき...

コメント

この作品の感想は難しかったです~(><)

こんばんは~♪

2ヶ月ほど前に読んだばかりですが、
とにかく暗い本だったという印象です。
小学生の複雑な感情の描写がなんとも言えません。
慎一の抑えきれない感情はこちらまで胸が
痛くなってきちゃうほど。
小学生らしい感情と、小学生らしからぬ感情が
ミックスされてて、将来どんな大人になるんだろうと。

大衆受けしなさそうな内容だと思うのですが、
直木賞受賞作なんですよね~。
こういう感情ものは選考基準では好評価なのかしら。
文学をあまり理解していない私にはちと難しいです^^;

最初から最後まで暗かった…

TKATさん、こんばんは♪
嫌な感覚を呼び起こしてしまったようで、ごめんなさいね~
好きではない、と思いながらもどんどん読んでしまった私です。
それが筆の力というものなのでしょうか。
実は、ゲームよりはこちらの方がまだ救われるのでは?なんて
思ってしまいました。
難しい人間関係の中で、残酷なことをやっているけれど、
非現実の画面に向かって、模擬殺戮をするよりは、
ずっと人間的なのではないか、と思うのです。

>将来どんな大人になるんだろうと。
心の傷を癒せる何かがあれば、と思いますがどうなんでしょうね。
いつか、昭三おじいさんの言葉が頭に浮かぶことでしょう。

TKATさんがおっしゃるように春也は心配…。
父親に打ち勝つ術を会得(?)してしまい、力関係が逆転した時に
その家族はどうなるのだろう、と。
鳴海チャンは基本的に素直な子だと思いました。

この暗さを振り切る本を、ちょっと探してみましょ。
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