上海 : 夢の国・亞洲文化宮

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上海

20110829

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著 者: 横光利一
出版社: 岩波書店(文庫)
刊 行: 2008年2月

<経緯・内容>
本作の原型は1928年(昭和3年)から3年にわたり雑誌『改造』に発表された三部作である。1932年これを『上海』と題する単行本にまとめ改造社から刊行。1935年に全面改訂して書物展望社から再刊した「決定版」が、本書の底本となっている。小田切秀雄氏の解説によれば、この版では、一章分が削除され、かなり修正されているとのこと。修正前の改造社版も刊行されているようなので、今度目を通してみようと思う。

著者が上海を訪れたのは1928年春の1か月間。国民党の上海南京占拠、二党の分離、済南事件、張作霖爆死事件など、内外の複雑な情勢が前後を取り巻いていた時期である。物語は、1925年(大正15年)に上海で起きたゼネ・スト、五三十事件を中心としている。著者の「自分の住む惨めな東洋を一度知ってみたいと思う子どもっぽい気持ち」という動機が、主人公参木の虚無的態度に大きく反映されていると思った。

<登場人物>
参木:銀行を辞した後紡績会社に就職。芳秋蘭に恋する。
甲谷:参木の友人で材木商。宮子に求婚。
高重:甲谷の兄。紡績会社の人事担当。
芳秋蘭:中国共産党の革命家。
山口:アジア主義者。遺体を医者に売る商売をする。
お杉:娼婦。参木を慕う。
宮子:踊り子。西洋人のパトロンが多い。
お柳:トルコ風呂を経営。
銭石山:お柳の夫。実業家。
オルガ:娼婦。白系ロシア人の元貴族。
木村:競馬狂。

<あらすじ>
参木は、上司の不正に口出しして銀行を退職。そんなときトルコ風呂で、自分の軽いいたずらから雇われていた少女お杉が辞めさせられたため、自宅に泊まらせる。そのとき同宿していた甲谷から貞操を奪われたお杉は、去って身を落としていく。

日本人の間では、共産党の女性革命家、芳秋蘭の噂が取り沙汰されていた。神出鬼没の彼女だが、参木の再就職先である紡績工場で女工として働いているという。ある日、予想された通り工場は突然炎に包まれ、騒乱は周囲に波及して大混乱に陥る。そんな中、参木は芳秋蘭の方に吸い寄せられ、足を怪我した彼女を介抱する。

あるとき、参木は中国人の身なりで市内の視察をするうちに、市街戦に巻き込まれる。その中に芳秋蘭の姿を発見した彼は身の危険も顧みず彼女を追い、窮地に陥る。いつしか彼は彼女に助けられる形で建物の階上へ。芳秋蘭は自らの思想をはっきりと伝え去っていく。

参木は突然襲われ川に投げ込まれるが、板切れに捕まって九死に一生を得る。彼はお杉の元へ向かう。

<感想など>
凛とした芳秋蘭に比べ、男たちは何と精彩を欠いていることか。

主人公参木は、友人甲谷の妹を熱烈に愛していたが、彼女が結婚して気持ちが萎えてしまい、その痛手から今なお立ち直れないでいる。そんな中トルコ風呂でよく見かける見習いの少女お杉を嫁の候補に考えるが、行動には移せない。その後芳秋蘭と出会って恋心が一気に高まり、自分の真実を吐き出そうとするのだが、結局虚無的心境を吐露するに過ぎない。それでも彼女が出没しそうなところを、参木はうろつくのである。一歩を踏み出せないでいる彼が、腹立たしくてならない。

甲谷という人物も複雑だ。彼は踊り子の宮子を好きなのに、参木に紹介しようとする。そして友人、恋人、商売を天秤にかけるのだ。最後には正直に宮子に求婚するが拒否される。足蹴にされても頭を下げ続ける、その姿は滑稽だ。

他の日本の男にも、評価に値する人物は見当たらない。著者の西洋人に対する目も厳しい。お杉にしても、オルガにしても、故国はすでにないに等しい。このように、著者は、植民地を作り出した列強を非難すると同時に、この地に居住する外国人の、漂流せざるを得ない窮状も映し出している。

人々の暗い顔や、川を流れゆく汚物が丹念に描き出されており、そうした状況を読むのは非常につらい。しかしそんな読むに堪えない部分があるからこそ、歴史的事実や人間の生々しさが生きてくるのだと思う。社交場の華やかさや銃撃戦の凄まじさは、魔都上海を象徴する手段として必要不可欠の要素である。しかしそれよりも視覚上負となることがらに重点を置いている点で、説得力のある作品となっている。また芳秋蘭については理路整然とした意見、革命家としての立場は詳しく述べられるが、私的な部分(恋愛、家族、友人など)は描かれていない。こうしたキャラクター設定が、彼女の謎をより深める好結果となった。

ところで話は全く変わるが、上海を舞台とした映画をいくつか(『上海ルージュ』『上海グランド』『ブラッド・ブラザーズ -天堂口-』『シャンハイ』など)見てきたが、いずれも十分満足できる内容ではなかった。一方、当時を描いた小説やドラマには、本書も含め惹かれることが多い。歴史、恋愛、サスペンスをすべて網羅しようとすると、映画の2時間ではなかなか描ききれないということか。と言いながらも、スリリングな展開の本作品が映像化されたら…と、ちょっぴり期待している私である。

今度は、横光利一に上海行きを勧めたという芥川龍之介の『上海游記』を読んでみたい。

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