兄弟 : 夢の国・亞洲文化宮

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兄弟

20110523

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著 者:余華
出 版:上巻:2005年8月 下巻:2006年3月
言 語:簡体字中国語
出 版:上海文芸出版社(中国)
日本語版:上巻『文革篇』下巻『開放経済篇』訳者:泉京鹿

<はじめに>(完全なネタバレです)
著者は、張芸謀監督作『生きる』の原作者。10年ぶりに発表した本作は、中国で大ベストセラーになったという。日本語翻訳版はすでに文庫化されており、訳語を確認するためにも読むつもりでいる。
物語の時代は1960年代半ば、文化大革命が始まる頃から、2005年反日運動が起こる時期までの約40年間である。舞台は上海から長距離バスで数時間の、江南地方の小さな町。著者の故郷の浙江省だろうか。
まずは忘れないうちに登場人物を書きだしておこう。

李光頭:主人公
宋 鋼:李光頭より1歳上の義兄
林 紅:李光頭の初恋の女性 
劉作家:作家
趙詩人:詩人
陶 青:李光頭の元上司
宋凡平:李光頭の継父 宋鋼の実父
李 蘭:李光頭の実母 宋鋼の継母
童鉄匠:町の鍛冶屋
余抜牙:町の歯科医
王冰棍:町のアイスキャンディー売り
小関剪刀:町の研ぎ屋
張裁縫:町の仕立て屋
蘇 媽:食堂(点心の店)のおかみ
蘇 妹:蘇媽の娘
周 游:商売人

<簡単なあらすじ>
李光頭と宋鋼は再婚した両親と共に貧しいながらも幸せな日々を送っていた。ところが文化大革命が始まってすぐ、父は地主として糾弾され惨死、母は2人が10代半ばの時に病死する。以後兄弟は離れた時期もあったが、やがて助け合って生活するようになる。実直な兄宋鋼とは対照的に、弟の李光頭は町のはみ出し者だ。彼は町一番の美女、林紅に何度も求愛するが激しく拒絶される。後に宋鋼の方が林紅と結婚し、兄弟は絶縁する。
役所を解雇された李光頭は廃品回収業に身を転じ、その利益は年々上昇の一途をたどる。彼は豊富な資金で次々と新たな事業を展開し、ついに町一番の大富豪に。一方、宋鋼、林紅夫妻の生活は困窮していた。宋鋼はリストラされた上、体を壊す。林紅は上司によるセクハラに悩まされるが生活のため我慢していた。宋鋼はついに出稼ぎを決意。商売人周游について福建省、広東省、海南島を巡る。

<感想など>
1960年生まれの作者は、主人公と同年代と思われる。前半には、激しい貧困、親との永遠の別れなど、一生分の苦労を経験したような兄弟の姿が、時には痛々しく、時には力強く描かれる。2人は実の兄弟ではないが、互いを思いやり、絆を強めていく。それは再婚した父母の人間性によるのだろう。両親は深く愛し合い、尊敬し合い、それぞれが相手の連れ子にも実子同様の愛情を注ぐ。父の不屈の精神を引き継いだのが弟、母の細やかな性質を引き継いだのが兄とも思え、血のつながり以上に深い信頼関係が伝わってくる。彼らの幸せが一瞬のうちに理不尽な嵐で壊される様子は、読んでいて本当につらい。

兄弟のキャラクターは全く違う。慎重な兄とそそっかしい弟。大人しい兄と活発な弟。わずか7歳で性に目覚める弟に対し、兄は奥手(というより普通)である。いつしか兄は弟に逆らえない状況となる。とはいっても弟には兄を支配しているつもりはない。兄も弟と一緒にいるのが楽なのだ。しかし、いつしかその密接な関係は終わりを告げる。林紅が兄弟を引き裂いたと言っても言い過ぎではないだろう。でも彼女を責めることはできない。好きな女性と結婚して精神的に満たされながらも坂を転げ落ちていく兄と、多くの女性と関係を持ち大富豪になるが恋愛できない弟。さてどちらが幸せだろう。最後はそんな問いかけも聞こえてくるようだ。

2人を取り巻く登場人物もキャラクターが際立っていて面白い。
劉作家と趙詩人は、兄弟が7、8歳のころすでに中学生。李光頭を散々苛めていたが、いつしか立場は逆転する。李光頭の付き人的役割を与えられ経済的に潤う劉に対し、趙の方は生活に恵まれない。劉も趙も、荒波に翻弄されるたびに大樹を頼る、小人物の代表に感じられた。

街の職人たちは、初めて李光頭に投資したときに大損する。その苦い経験から、二度目の投資に際しては、する者としない者に分かれるが、これが生活上の明暗を分けることとなる。ただ経済的に潤う者が必ずしも幸せとは限らない。遠い地で行商生活をする小関剪刀は、貧しくても奥さんとの丁々発止のやり取りを楽しんでいる。世界中を飛び回る余抜牙が、見識が広そうで実は踊らされているさまは、滑稽に映る。十人十色の人生模様がドラマチックだ。

物語をけん引するのは、李光頭の傑出したキャラクターといえるだろう。背が低くピカピカ頭。その容姿はすぐ脳裏に浮かべることができる。幼くして生き抜く術(すべ)を体得し、年長者とのやりとりでも決して怯むことなく、常に挑む姿勢で臨んできた李光頭。殴られても起き上がる。圧力をかけられても下がらない。そんな継父譲りの粘っこさが結果的に成功(と言えるかわからないが)を導いたのである。こんな風に書くと彼がいかにも正義の人に見えるが、正義とは遠いところにいる人物だと思う。善も悪も一手に引き受けて、必要に応じてそのカードを切る、駆け引きの人である。

奇抜なエピソードが次から次へと現れて飽きさせない。しかし同時に、女性を使った過激な場面に、反感も覚えるのである。美処女コンテスト。処女膜販売に群がる愚かな女性たち。林紅が襲われて女性としての快感に目覚める場面。いずれも好奇心を刺激させるのに格好の材料だが、誇張が過ぎて嫌悪感が残った。これも作者の想定内だろうか。

李光頭も林紅も、かけがえのない人間を死に追いやった罰として、もう二度と、太陽の下を歩けなくなった、という結末である。売春宿の女将になった林紅に対し、李光頭は宇宙に宋鋼の遺骨を撒きに行こうとする。もしや自分も宇宙の藻屑になろうとしていないだろうか。

物語に引き込まれると実写版を想像するものだが、これに限っては映像で観たくない。
賛否両論渦巻いているというのが、よくわかった。

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