来福の家 : 夢の国・亞洲文化宮

スポンサーサイト

------

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

来福の家

20110214

laifudejia.jpg

著 者:温 又柔(おん ゆうじゅう)
出版社: 集英社
刊 行: 2011年1月

<内容・感想など>
『好去好来歌』(こうきょこうらいか)と『来福の家』の二編が所収されている。どちらも出自の似た女性を描きながら作風は全く違う。『好去好来歌』にはガラス細工のような危うさが、『来福の家』にはカラリとした明るさが漂う。

『好去好来歌』
楊縁珠(よう えんじゅ)は、台湾人の両親と3歳から東京で暮らしている。高校の授業の一環で大学の中国語の授業に参加した時、後ろの席にいたのが、恋人<麦生>(本名は田中大祐:タナカダイスケ)である。あるとき、麦生は北京留学が決まったことを縁珠に告げる。

主体は楊縁珠だが所々で視点が変わる。それは麦生だったり、祖母だったり、母だったりする。場面の変化が曖昧模糊としているので、時々戸惑ってしまう。主人公の揺れる内面を映すように、文体も展開も夢うつつといった雰囲気を時折感じた。

成長するにつれ、縁珠は日本語だけで会話するようになる。母親は日本語、国語(台湾で使われる北京語)、台湾語をミックスさせて話す。日本では特別視され、台湾では日本人だと思われ、周囲の視線に鋭敏になっていく縁珠。葛藤が彼女の中を逆巻いているように見えた。

「日本人のくせに、どうして中国語を喋るの?(以上引用)」という、麦生に向けられた縁珠の言葉が、自分にも突き刺さった。習った中国語を使いたかっただけなのに。私の中では、彼女を理解しきれないもどかしさと、背景を明らかにしないまま爆発した彼女への憤りが逆巻いた。

本文では「日本人のくせに」にルビがふってある。それまでの過程でも、「ちゃんとした」とか「ふつうの…」がルビで強調されている。この作品を読むまでは気付かなかった何気ない一言が、浮き出してくる。

上品な日本語を使う祖母の世代、「国語」を強要された両親の世代、そしてアイデンティティに揺れる縁珠。物語は縁珠の目を通して中国、台湾、日本の歴史も描かれる。最後に縁珠が、名付け親である祖父の死を悼んで大粒の涙をこぼしたとき、また「タナカダイスケ」の平凡さに気づいたとき、彼女が一歩を踏み出したのだな、と思った。

『来福の家』
許笑笑(きょ しょうしょう)は、台湾人の両親、6歳上の姉と共に東京に住んでいる。大学卒業後中国語の専門学校に入学し、台湾の国語では使われないピンインや簡体字、巻舌音を学習。やがて日本語教師の姉が、小学校教師の瀬戸さんと結婚することになる。

前編『好去好来歌』で、主人公に苦しさを共有できる人がいればいいのに、と思っていたら、本作では姉妹が登場。愛情に満ちた両親と、仲良しの友達、そして新しい家族との交流が微笑ましく、福を分けてもらった気分になった。

言葉遊びの風景が楽しい。笑笑は「エミちゃん」と呼ばれている。幼いころ「名前が二つある」のを羨んだ幼ななじみのサトミちゃんに、笑笑は姉からきいた「もう一つの名前:リミ」を教える。以来、二人はエミちゃん、リミちゃんの仲だ。笑笑が中国語の専門学校で学び始めると、リミちゃんは自分の名の中国語音読みを尋ねる。里実(リー、シー)。よく間違えられる「里美」は「リー、メイ」。こっちの方がきれいな音だ、と喜ぶリミちゃん。これと似たエピソード(名前の文字が「実」ではなく「美」だったら響きがいいのに、と友人が言っていた)を思い出す。

ピンインが喜ばしい発見だったというのも興味深い。音のみだった中国語を書き記すことの喜び。浮き立つような心が文章に表れている。

専門学校の張先生が「台湾の言葉も中国語に変わりないが発音の段階で混乱しないように指導する」と言う。前作の縁珠が、この先生に出会えたらよかったのにと思った。学習者としては、学ぶ意味を明確に理解したいものだ。

終盤、瀬戸さん一家とウェイウェイを招いてのホーム・パーティで、タイトル『来福の家』を実感した。様々な言葉が飛び交い、率直な疑問が投げかけられ、笑いの渦が起こる。<ヅァージャンミェン>の湯気とかおり、みんなの笑顔が浮かんできて、この「来福の家」に一度お邪魔してみたくなった。

コメント

非公開コメント
プロフィール

孔雀の森

Author:孔雀の森
いろいろな出会いを
大切に♪

カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
最近のコメント
カテゴリー
最近のトラックバック
最新の記事
リンク
ブログ内検索

Pagetop
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。