大地(下)~第三部 分散した家 : 夢の国・亞洲文化宮

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大地(下)~第三部 分散した家

20101123

著 者:パール・バック
原 題:A House Divided (1935年著)
訳 者:佐藤亮一
刊行年:1971年6月
出版社:旺文社文庫(特製版)

<あらすじ>
1920年代、軍閥戦争、革命闘争が繰り広げられている中国。王虎の息子、王元(ワン・ユワン)は士官学校に行っていたが戦争に疑問を持ち帰郷。祖父の住んでいた家で自由に過ごすうちに、周囲の冷たい視線に気づく。やがて彼は上海に住む義母(父のもう一人の妻)と腹違いの妹愛蘭と暮らすようになり、華やかな世界を知る。そんなとき、革命を叫ぶいとこの孟(メン)の仲間に入ったことから逮捕される。しかし義母や父の尽力で釈放され、密かに乗船。到着した先はアメリカだった。彼は6年間この地で学ぶ。

<感想など>
小説で魅力的な登場人物に出会うと、よく演じる俳優を思い浮かべるのだが、今回は想像が及ばなかった。主人公王元の顔かたちから性格、考え方、行動、五感にいたるまで、その描写は精緻を極め、元その人以外に誰も考えられなかったからだ。父、義母、愛蘭、恩師の娘メリー、片想いの相手梅琳らにも、確固とした人格が根付いているのを感じた。

こうした詳細な人間像に比べ、地域は曖昧である。元が暮らし始めた「上海」は、ただ「海岸の都会」と表現されるだけだ。広州と思われる場所も「南方」とか「言葉が全く違うところ」という表現からその地と推測した。また、元が帰国後教鞭をとっている都市もおそらく南京なのだろうが、具体的な地名は出てこない。歴史上の人物も描かれていないので、年代が把握しにくかった。

それでも、多種多様な人間、思想、年代、風景を眺めながら年表を参照するうちに、時代背景がつかめてきた。この巻は前の二巻に比べ地域が広範で華やかな色彩を帯びている。元の成長と歴史の激動が重なった。

元は自分をしっかりと持った青年である。ときにはその「自分」が強すぎて融通の利かない人間に見えてしまうこともある。妹愛蘭、いとこの盛のように、華やかな世界に流されず、いつも自分の物差しで周囲を見つめている。これは作者自身の目でもあるのだろう。渡米後の孤独、違和感も、彼独自の感覚だと思う。メリーに対する尊敬と友情、恋に至らなかった気持ちが深いところまで描かれ、彼の真剣な思い、戸惑いがうかがわれる。

一方、メリーの主張も明確だ。元をキリスト教に誘い込む両親に対し、彼女は非難眼を向ける。作者は元宣教師で、のちに、外国での伝道の必要性に疑問を持ったという。メリーの一面には作者自身が投影されているといえようか。日々語り合ってきた2人だが、元自身の違和感から両者が愛情で結ばれる道は閉ざされる。

帰国後、元は父が叔父の豪商王から多額の借金をしているのを知り、働いて返済せざるを得なくなる。結局父から離れることはできないと彼は悟る。またアメリカ人から聞かされた祖国の裏面を、彼は自分の目で見ることとなり、貧困層の実態に愕然とする。渡米前と帰国後、父と再会する前と後で、彼のものを見る目は大きく変化している。作者と元が同一人物ではないかと、錯覚しそうになった。

クライマックスは元と梅琳の恋愛シーン。父の王虎が死の床にいるときだ。軍閥の首領として跋扈していた「虎」が果てようとする夜に、ふと王龍が戻ってきたような感覚になった。一人の人間が逝こうとしているのに悲しみに包まれないのは、若い二人が未来を見つめているからかもしれない。

『大地』は、障がいのある娘の治療費を稼ぐために書いた作品とのこと。1938年にはノーベル文学賞を受賞。その対象作品である『母の肖像』『戦える使徒』も読んでみたい。

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