遅桂花 : 夢の国・亞洲文化宮

スポンサーサイト

------

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遅桂花

20101113

著 者:郁達夫
所 収:中華現代文選 上冊
出 版:上海教育出版社
言 語:簡体字中国語
刊 行:1985年8月

<はじめに>
本書は、80年代後半杭州で学んでいた頃教材として使用していた短編集。序文には「中国文学を学ぶ外国人向けに編集した」とあり、訳注も充実している。目次には郁達夫のほか、魯迅、柔石、老舎らの名もある。この『遅桂花』、授業で扱ったのは最初の数ページのみ。先生が「地元杭州が描かれているから興味があったら最後まで読んでみて」と言ったのを思い出した。

郁達夫(1896~1945)は浙江省富陽県出身。東京帝国大学(現東京大学)卒業後、創作活動をしながら北京大学、広州大学で教鞭をとる。志賀直哉、井伏鱒二、林芙美子らとも交流があったという。先日読んだ金子光晴の紀行文にも上海で郁達夫と談話したエピソードが載っていた。スマトラで日本の憲兵に殺害された話には胸が痛む。

<内容・あらすじ>
30ページ強の短編小説。最後に1932年杭州で書いたとの記述がある。
二部構成の前半は、主人公《郁先生》あての手紙文。差出人は友人の翁則生である。後半は《郁先生》が翁則生の家族と交流する場面が描かれている。タイトル《遅桂花》は遅咲きの金木犀という意味。

翁則生は郁が日本に留学していたころの同級生。肺結核のため勉学を断念、帰国する。彼は婚約解消の辛い体験を経て、現在、母、妹と杭州に在住。ようやく結婚が決まったとの嬉しい報告に、郁は早速上海から杭州に向かう。

杭州到着後、郁は則生が住む翁家山に向かう。途中で金木犀の香が漂ってきたが、この季節にしては遅いなと感じる。

郁は翁則生の家で旧交を温める。母親も妹の蓮も大喜びだ。則生の結婚準備が着々と進む中、蓮は元気がない。彼女は一度結婚したがその生活は苦労の連続で、夫の死後実家に戻っていた。郁は蓮に五雲山を案内してほしいと頼む。

<感想など>
月夜の静謐な雰囲気と、山間部に漂う濃厚な匂い。主人公と同じ空気を吸っているような気分になった。前半の手紙に綴られている友の苦悩と喜びが、郁先生の「会いたい」気持ちに拍車をかける。自然の風景に、苦労を経た家族たちの笑顔が溶け込んで見える気がした。

物語の中心は、郁と蓮が山間部を歩く場面だろう。彼は蓮の自然に対する博識に敬意をおぼえ、彼女をじっと観察する。天真爛漫な振る舞いの中に女性らしい物腰。ふと外国の小説に登場した主人公の女性たちと重ね合わせ、彼女たちの顛末がいずれも不幸だったのを思いだす。このとき郁先生は蓮の手を握り「1分間」見つめていた、とあるが、1分って、相当長い時間だなと思いながらこの場面を繰り返し読んだ。中国語では「過両天」を「2~3日後」と曖昧に表現することもあるから、ここも曖昧に「相当長い間」と解釈した方がいいのか。それともほんとうに「1分間」? 彼女の方も恥ずかしがりもせず彼の顔を見ていたとあり、いよいよこの2人の間は恋に発展するのか?と期待してしまう。

おそらく、郁は彼女に恋心を抱いたのだろう。でも、ここには書かれていないが彼は妻子ある身。彼は蓮に考えていたことをすべて話し、思わず涙してしまう。そして彼女に恋情を向けた自分を激しく責める。彼女の方も郁を好きなのだろう。彼の言葉を聞いた後、懐に飛び込んで泣く。で、そのあと2人の関係は意外な方向に発展する。

「義兄妹の誓い」である。以後2人は「蓮」「大哥」と呼び合う仲に。気持ちの切り替えの早さに驚くとともに、純粋な気持ちの尊さ、相手に対し真摯な態度で臨むことの大切さも感じた。たった1日だが2人の変化は大きい。

『遅桂花』は遅咲きだが第一弾の花より開花期間は長いとのこと。郁は新郎新婦への祝いの言葉でこの例えを使う。実はこの『遅桂花』は、翁則生、母親、蓮、そして自分に対する言葉でもある。

郁と蓮の歩みを目で追ううちに、懐かしい光景が広がってきた。銭塘江のさざ波や、西湖一帯の静かな風景、龍井茶の芳しい香り。そのうち『遅桂花』の季節にかの地を訪れ、2人の足跡をたどってみたい。

コメント

非公開コメント
プロフィール

孔雀の森

Author:孔雀の森
いろいろな出会いを
大切に♪

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最近のコメント
カテゴリー
最近のトラックバック
最新の記事
リンク
ブログ内検索

Pagetop
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。