海堂 尊『死因不明社会』 : 夢の国・亞洲文化宮

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海堂 尊『死因不明社会』

20090822


出版社:講談社


刊行年:2008年4月(初版は2007年11月)



<内容・感想など>
副題は『Aiが拓く新しい医療』。全12章の表題は
それぞれ次の通り。
1 そして誰も「解剖」されなくなった
2 現代日本の解剖事情
3 死体のゆくえ
4 解剖崩壊
5 医療事故調査委員会における厚生労働省の謀略
6 Aiは医療事故問題解決の処方箋となりうるのか?
7 Aiの病院死症例における威力
8 「死亡時医学検索」の再建のための処方箋「Ai」
9 犯罪監視システムとしてのAi
10 死をめぐる医療と司法の相克
11  Aiの医学的考察
12 「死因不明社会」の処方箋と明るい未来
上記のうち1、3、5、7、9、11の各章は、
時風新報桜宮支社の別宮葉子記者が
厚生労働省の白鳥圭輔室長にインタビューする
形式をとっている。
(両者とも海堂氏の著書における登場人物)

海堂尊氏の小説に出会わなかったら
このジャンルの本は手にとらなかっただろう。
氏は、本名だと読まれないかもしれないから
ペンネームを使ったと語る。
ベストセラー小説の影響力をあらためて感じた。

私の場合、一連の作品を読む前に
「日本での解剖率は2パーセント台」と言われても、
「へ~、そうなんだ」で終わってしまう気がする。
この低い解剖率が社会にもたらす弊害を想像できないからだ。

著者はまず98パーセントの死者が死因不明である現状を提示し、
犯罪の看過という問題点を指摘する。
そして体表観察だけでは死因が確立できないと断言した上で、
解剖の必要性を説く。
こうした順序立った説明と明確な主張はとてもわかりやすい。
また、ユーモアたっぷりの対談と論理的な文章の、
緩急織り交ぜた構成が、読む気にさせてくれる。
このような手の込んだ構成に、著者の戦略を感じた。

解剖の必要性を説くにあたり、氏は他に医療監査、
公衆衛生学的なデータ集積といった事柄を挙げている。
同時に解剖が敬遠される理由が述べられ、色々と考えさせられた。
挿入された多くの画像や図柄は、理解の手助けともなった。

次に解剖が「病理解剖」「行政解剖」「司法解剖」に分類され、
それぞれの担当部署、強制力、費用捻出といった諸条件が
違うことが述べられる。
強制力も費用拠出もある限定5都市では、
他地域よりも解剖件数が多くなり、
死因が特定しやすいとのこと。
つまり地域差が生じるということだ。
死因不明のケースが地方で多くなるというのは驚愕の事実だ。

以上のような解剖の問題点を踏まえた上で
Ai(Autopsy imaging:死体に対する画像診断)の
必要性が論じられる。
ここで著者が強調するのは、
Aiにより解剖すべき遺体とその箇所を判別するということだ。
私は今まで「解剖の衰退→Ai導入」と短絡的に考えていたが、
これは誤りだと著者は説く。
「Ai導入のメリット」として挙げられた8項目は
どれも説得性があり、なぜすぐに導入されないのかという
疑問がわく。
するとすぐ、「Ai」の問題点が提示される。
こんな風に読者の気持ちを即座に読み取る
ような展開は、ありがたい。
問題点は大きく分けて「コスト」と
「患者診断用機器を用いることへの反発」だが
本書で終始主張しているのは主に「コスト」面である。

白鳥君は終始「コスト」を拠出しようとしない厚生労働省を批判している。
別宮記者から「身内批判」と言われながらも
辛らつな言葉を並べる白鳥君は、著者の分身とも言えるだろう。

最後に再び「死因不明社会」に立ち返り、法律の問題を取り上げる。
医師の「死亡時医学検索」は義務であることを繰り返し、
再度この業務の明確化を説く。
「死因不明社会」の変革を目指す著者のバイタリティには、
頭が下がる思いだ。

本書を読んだ後、ふと『ナイチンゲールの沈黙』の
小夜ちゃんが思い浮かんだ。
よくあの場で冷静に処理できたなと感心してしまう。
(本書で解剖の困難さを知ったので)
小夜ちゃんを指導した桜宮巌雄って、
もしかしてすごく偉大な人なのかも…。

海堂氏の一連の作品を再読してみよう。

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「死因不明社会」 海堂尊 :TK.blog

『死因不明社会 : Aiが拓く新しい医療』   著者:海堂尊  出版社:講談社 ブルーバックス <感想> 日本の解剖率は先進諸国中...

コメント

よく考えたら小夜ちゃんって…すごい

こんばんは^^
日本での解剖率は2パーセント台という事実から社会にもたらす弊害を知ったら、
医学ド素人の私でも「Ai導入を!」と声を出して言いたくなっちゃいます。

医学の世界で現役の海堂さん、自身の知名度を使い本でここまで
厚生労働省を非難するとは…ホントすごいバイタリティですね~。
そこまでして訴える価値がAiにはあるのでしょう。

医学ド素人の私たちにAiについてあーだこーだと語らせたわけだから、
少なくとも世間にもっとAiを知ってほしい!という著者の思いは届いてますね(笑)。

この続きもぜひ!

TKATさん、こんにちは♪
CTやMRIには日頃からお世話になっているので、
「Ai」も普及しているだろうと思いきや、まだまだなのですね。
海堂さんが声を大にして主張していることに対し、
費用を拠出する側はどう考えているのでしょう。
そちらの「反論」もきいてみたいものです。

TKATさんがおっしゃる『続・死因不明社会』、読んでみたいですね。
「Ai普及により死因不明のケースが減少」という内容であってほしいです。

>少なくとも世間にもっとAiを知ってほしい!という著者の思いは届いてますね
ですよね。私たちのような会話を交わしている人たちは多いことでしょう。
「Ai普及」を選挙公約に掲げる候補者、いないかな~

>よく考えたら小夜ちゃんって…すごい
歌姫で、医療技術があり、エージェントの内幕でもあり…
なんだか底知れない人物のように思えてきました。

ともかく今後の海堂作品、ますます楽しみですね♪
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