辻原 登『許されざる者』上巻 : 夢の国・亞洲文化宮

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辻原 登『許されざる者』上巻

20090805


出版社: 毎日新聞社


刊 行: 2009年6月 



<あらすじ>
日露戦争(1904~05年)が始まる前年、槇隆光は研修先のインドから森宮に帰郷、すぐ槇医院を再開して「差別なき医療奉仕団」を結成する。また太平洋食堂を、脚気栄養障害説を実践する場として、メニューを考案する。姪の西千春はそこで生き生きと働き、皆に愛されていた。彼女は両親が亡くなった後祖母ゆんの手で育てられ、莫大な山林財産を受け継ぐ。従兄で建築設計士の若林勉は千春を愛しているが、肺病のため告白を断念、彼女を陰で見守る立場にあった。そんな時、槇は、森宮第十代藩主の長男、永野忠庸(タダヤス)の診療に赴き、永野夫人に惹きつけられる。
日露戦争が勃発すると、永野や夫人の甥、馬渕は戦地に行き、槇も脚気治療目的の従軍を要請される。


<感想など>
下巻読了後に上下巻の感想を書こうと思ったが、
図書館のリクエストが回ってくるのがだいぶ先のようなので、
忘れないうちに上巻の感想を書くことにした。

まず冒頭で、主人公を待つ「私たち」の雑感が述べられる。
この「私たち」は傍観者的存在で、
特に登場人物名があるわけではない。
こうして描かれた人物や風景は、綺麗なものも汚れたものも、
すべてがオブラートに包まれているように感じられる。
わかりにくいだろうか。何と言ったらいいのだろう。
緊迫している場面でも、ゆったりとした雰囲気の中で展開する。
また美しいものは、時には荘厳な光を放ち、
束の間現実から逃避するのである。
著者の言葉の選びかたが独特なのだと思う。
文字の間に静謐な世界が広がっているようだ。

著者のインタビューによれば、
大逆事件に関わる人物をモチーフに架空の世界を設定し、
和歌山の新宮を「森宮」として日露戦争前後を描いたのだという。

社会主義思想を広めようと地下で活動する人々と、
これに眼を光らせる警察署長との緊迫した関係が、
不穏な空気を作り出している。
主人公は槇隆光という優秀な医者である。
インドの最下層の人々を見てきた経験から差別意識に敏感で、
貧しい人からは医療費を取らず、
富裕層からはたくさん取るといわれている。
まさにスーパーマン的な存在で、「毒取ル」の愛称もある。
この槇と永野夫人との邂逅にはドキリとさせられる。
一言二言のやり取りと表情だけで、
互いの意を知り恋の炎を燃やすのである。
シンパシーとでも言うのだろうか。
2人の関係が下巻でどうなるのかが最大の関心事である。

西千春と、彼女をめぐる人間関係にも目が離せない。
美しい彼女に嫉妬心を燃やす、はとこの左巴(さは)君枝。
新聞「熊野魁(さきがけ)」の記者で、
千春を陥れるためには何でもやる!という元気な(?)女性。
泥沼ドラマには必ず登場する悪女的キャラクターだ。
従兄の勉や、鉄道建設に意欲的な上林、
さらに永野夫人の甥である馬渕など、彼女に惹かれる男性は多い。
好奇心旺盛なお嬢様の今後はどうなるのだろう。

魅力的な登場人物が勢ぞろいし、
時には舞台を見ているような気持ちになる。
巨大仏教教団の宗家の長男、谷晃之にはゆったりとした人柄の良さ、
大物ぶりを感じる。
中駒組を率いる女親分、中子菊子がもろ肌を脱ぐ場面は美しい。
まるで映像を観ているようだ。
槇に惚れているがそれを隠し、
永野夫人に対する気持ちを言い当てて忠告を与える。
この人物が大好きだ。
時計屋、点灯屋という、この時代ならではの職業も興味深い。
ところで「永野夫人」はなぜ名前で表されないのだろう。
(かえって艶めいた雰囲気を感じる)
さらに森鴎外、田山花袋、ジャック・ロンドンといった有名人も登場。
下巻がますます楽しみだ。

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