伊坂幸太郎『魔王 : 夢の国・亞洲文化宮

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伊坂幸太郎『魔王

20090725



  出版社: 講談社(文庫)
  刊 行: 2008年9月(単行本は2005年刊行)
  内 容: 『魔王』と、その続編である『呼吸』の2編を収録。

<あらすじ>
『魔王』
安藤は弟の潤也と2人暮らし。最近は潤也が恋人の詩織を連れてくることも多い。ある日安藤は自分に特殊な能力が備わっているのを知る。自分が考えた台詞を特定の人物に語らせる《腹話術》である。世の中はちょうど衆議院解散目前で、野党第一党の未来党が大躍進していた。その若く魅力的な党首犬養が人々の支持を集める様子に、安藤は危機感をおぼえる。
『呼吸』
『魔王』の5年後。詩織は潤也と結婚して3年になる。猛禽類調査の仕事をする潤也に伴って仙台に越し、この地でメーカーの派遣社員として働いていた。そんなある日、潤也に「ジャンケンで絶対に勝つ」特殊能力が備わっているのを知る。競馬でも予想が的中、大勝する。現在の首相は未来党の犬養だが、彼はたびたび命を狙われていた。


<感想など>
『魔王』、『呼吸』の初出がそれぞれ2004年、2005年。
斎藤美奈子氏の解説によれば
前者は2005年「郵政選挙」での小泉自民党圧勝以前、
後者は2007年安倍内閣による「国民投票法」成立以前の
著作とのことで、著者の先見の明(あるいは予知能力?)を
思わずにはいられない。
私が本書と出会ったのは「衆議院解散、総選挙」が
話題となっている「今」である。
『呼吸』も決して未来の絵空事ではないと思うと
背筋が寒くなった。

背筋が寒くなるといえば、本書のタイトルでもある、
シューベルトの《魔王》である。
この話は小学校に上がる前から知っていた。
親に「言うことを聞かないと魔王に
連れてかれるよ!」と脅され、
言いようもない恐怖をおぼえたものだ。
その恐怖が今よみがえってきた。
何が恐ろしいのかと言うと、魔王の存在が父親にはわからず、
子どもにだけわかる、ということだ。
本書では魔王の存在にどれだけの人が気づいていたのだろう。

『魔王』では安藤が語り手である。
彼は大衆が同じ方向に流されていく状況を恐れている。
未来党の党首犬養の強烈な個性に、
多くの人々が何の考えもなくなびいていく様子に
「ファシズム」を重ね合わせる。
やがて彼は犬養の煽動をやめさせるため
《腹話術》を使おうとするが、
さらに強い超能力の使い手に阻まれる。
私は「ドゥーチェの主人は怪しい」と思った。
語り手の安藤がそう感じているからだ。
「ドゥーチェの主人、怪しいですね」と誰かが言ったら、
私は迷わず同意するだろう。
やがて考えなしに同意する人が大量に出現したら、
ドゥーチェの主人の<怪しい人>は
固定化してしまう。
本当は全く関係ないかもしれないのに。
それこそが恐ろしい。

そうした群集心理も恐ろしいが、
安藤の《腹話術》はもっと恐ろしいと思った。
他人の意思とは無関係に自分の台詞を語らせること自体、
傲慢の何物でもない。
彼の流されない心意気は素晴らしいが、
そのせいで彼の運命が尽きたのも納得できる。

『呼吸』の語り手は詩織である。
潤也の兄亡き後、夫婦で一切の情報から遠ざかった生活を
送っている。
彼らの周りでは、憲法第9条の違憲合憲を問う国民投票を目前に、
この選挙のあり方がさまざまな角度で論議される。
ここでは憲法のあり方を説いているのではなく、
2つの作品に一貫して流れる「考える」ことが問われている。
詩織のまわりではみんなが考えている。
首相となった犬養は聴衆に「考えろ!」と言う。
まるで「考えろ」をモットーにしていた
安藤の発言のようだ。
以前の論説とは違うことを発言し聴衆の怒りを買っても、
あくまで自分を貫き通そうとする。
何だか何者かに突き動かされているみたいだ。
やがて、詩織が思っていたのと同じ台詞を、首相が口にする。
え、詩織まで?
潤也は時として兄のような言動を見せる。
また密かに競馬の勝ち金を貯金している。
のほほんとした風貌だが、不気味な存在だ。
安藤の友人、島は、熱狂的な未来党支持者。彼も怪しい。
詩織の会社の危機もまた、群集心理が引き起こした現象と思える。
まさか誰かが仕組んだ罠では?
怪しげな事象は限りなく思い浮かび、心底怖くなった。

宮沢賢治の詩と魔王のメロディが重なって、
不安をかきたてられた。
元々この詩と曲は全く違う性質のはずなのに。

最初に戻るが、「魔王」とは果たして何者なのだろう。
「魔王」は選ばれた者のもとにやってくるのだろうか。

安藤君に「考えろ考えろ」と言われたせいか、
今度の衆議院総選挙には真剣な一票を投じようと考えている。
この作品はどの時期に読んでもタイムリーに感じるだろう。

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「魔王」 伊坂幸太郎 :TK.blog

『魔王』   著者:伊坂幸太郎  出版社:講談社 講談社文庫 <簡単なあらすじ> 「魔王」 安藤はある時気付いた。自分が念...

コメント

ホント恐ろしいタイトルですね…

政治の内容はまさしく「今」という感じですよね。伊坂さん自身も
何かしらの力(やっぱり予知能力?)を持ってたりして。。

私自身、内容的に消化不良な部分があったんですが、『モダンタイムス』を
読んで少し消化されました^^『魔王』より約50年後の話で、
詩織&潤也のその後がわかります。

ぜひぜひこちらもご覧あれ♪

50年後にも興味津々

TKATさん、こんばんは♪
50年後の詩織&潤也って、想像がつきません。
いったいどんな世の中になっているのでしょう。
『モダンタイムス』もそのうち(ずっとさきになりそうですが)
読むつもりです。

そうそう、千葉ちゃんの件では私の方こそ変な問いかけで
ごめんなさいね。
もし死神の調査、判断による「死」だとしたら反則だなあと、今ふと
思ってしまいました。

暑いですね。お互い有意義な鑑賞&読書のためにも(笑)、
身体に気をつけましょうね。
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