吉田修一『悪人』 : 夢の国・亞洲文化宮

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吉田修一『悪人』

20081006


出版社: 朝日新聞社

刊 行: 2008年4月(初版は2007年)



<あらすじ>
保険外交員、石橋佳乃の遺体が三瀬峠で発見される。前夜一緒に食事をした同僚の眞子、沙里に「高校時代の友人に会いに行く」と言い残していたことから、警察はその増尾という大学生を追う。しかし彼は行方不明のままだ。
やがて佳乃が出会い系サイトを通じて複数の男性と会っていたことがわかる。
土木作業員の清水祐一もその中の一人だ。彼は遺体発見の前夜、佳乃と待ち合わせをしていた。しかし彼女はその約束を反故にして、彼の目の前で別の男の車に乗ったのだった。
<感想など>
犯人が最初からわかっている状態で、事件が起こった背景を外側から読み解いていく展開である。
登場人物の生い立ちから現在の生活、さらに独白形式の証言は実に詳細で、まるで各人の人間形成物語のようだ。
加害者の動機は何だったのか。
被害者はなぜ殺される羽目に陥ったのか。
この2つの疑問を解明するために周囲の人間の人生が語られる。
ミステリー小説にありがちな辻褄合わせは一切ない。
また疑問に対する明快な答えも用意されていない。
最後に「あの人は悪人やったんですよね?」と問われても、即座に「そうです」と言い切れない自分がいる。
殺人犯なのだから悪いことをしたのは確かだ。彼は法的に「悪人」である。
それでも「悪人」と断言できないのはなぜだろう。
疑問を発した馬込光代は、祐一の人間性について解釈する自信がないのである。
心の底では彼の優しさを信じたいのに、信じられない証拠を突きつけられて、解釈を世間にゆだねているのだ。
彼女は彼を悪人と信じれば幸せになれるのだろうか。(それは祐一の希望でもある)
それとも共に過ごした濃密な思い出を抱えて生きた方が幸せなのだろうか。
物語は大きな疑問を投げかけたまま終ってしまう。

事件は大勢の人生を変えた。

祐一の祖母房枝は、健康食品購入の契約書に無理やりサインさせられるが、くよくよ考える時期を乗り越え、恐ろしいほどの気迫で契約解除を叫ぶ。
佳乃の父、佳男は経営する理髪店をしばらく休業していたが、妻の里子が営業を再開する。
これまで、彼女は免許を持っていても仕事を避けて通り、多忙の夫がよく文句を言っていたのだった。
里子は自分の手で散髪を始める。

そして祐一と光代。
出会う方法は何であれ、本物の相手と巡り会ってしまうこともあるのだ。
いや、タイミングが本物にさせたのだろう。
祐一については、主役級でありながら没個性の人間として描かれているところが珍しいと思っていた。
しかし光代との出会いを境に、生き生きとした表情になっていくのがわかる。
まるで内に秘めていた情に火がついたように。
人間が人間らしくなるきっかけについて考えさせられた。

最後の祐一と光代の独白を繰り返し読んだ。
周囲の人々の気持ちを表す描写も、もう一度読んだ。
人間の心の美しさ、醜さ、強さ、弱さ…。
人の心を「善」「悪」の一言で割り切ることはできないけれど、「悪」の部分が誰にでもあることを今さらのように思い知らされる。

光代には「いえ、悪人じゃないですよ」と答えたい。そうしたら彼女は何と言うだろうか。

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