揚 逸『ワンちゃん』 : 夢の国・亞洲文化宮

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揚 逸『ワンちゃん』

20080703


出版社: 文藝春秋
刊行年: 2008年1月 
受 賞: 文学界新人賞



<あらすじ>
王愛勤こと<ワンちゃん>は再婚相手と四国に住み、日本人男性と中国人女性を対象とする結婚斡旋業を営んでいる。
彼女はかつて中国で服飾関係の仕事をしていたが、金目当てに付き纏ってくる前夫との関係を完全に断ち切るため、海外で生きる道を選んだのだった。
しかし現在、日本人の夫との意思疎通はほとんどなく、病院で寝たきりの姑を看病しながら、<ワンちゃん>は仲人としての仕事に精を出していた。
近くに住む八百屋の土村の縁談もまとまりそうになってきたが、彼女の心中は複雑である。


<感想など>
中国人の揚逸<ヤン・イー>さんが日本語で書いた作品で、芥川賞候補に挙がったときから気になっていた。

まず<ワンちゃん>の回想シーンで、懐かしさがこみあげてきた。
彼女が服飾関係の仕事で飛び回っていた80年代後半は、私が中国に滞在していた時期に重なる。
路地裏でミシンを踏み続けるおばさんに、買ってきた生地と自分の服を渡すと、3日で寸分たがわない服を縫い上げてくれた。しかもオリジナルのよりずっと着心地がいい。
長距離列車で知り合ったおねえさんと、半年後同じ路線で偶然再会した。商売でいつもその列車を使うのだと言っていた。
あの頃、たくさんの<ワンちゃん>に出会ったような気がする。彼女たちは今どうしているだろう。
みんな底抜けに明るい笑顔を見せてくれたが、言葉に尽くせない苦労もあったに違いない。
話はそれたが、自分の人生を精一杯生きようとする<ワンちゃん>には、昔出会った人々の姿が重なり、応援せずにはいられない心情になった。

ところで「結婚斡旋業」の語感からは、何やら怪しげなにおいが漂ってくるのだが、<ワンちゃん>の目を通して描かれると、そんな気配はふっとんでしまった。
<ワンちゃん>の中に、損得勘定を抜きに皆に幸せになってもらいたいとの強い願いがあるからだろう。
日本人との縁談を求める中国人女性の中には、狭い社会で生きにくい事情を抱えた人もいて、彼女たちに向ける<ワンちゃん>の眼差しはとても温かい。
日本人男性に対する洞察力も鋭く、特に下品な年配男性に対する言葉は辛辣だ。しかしそんな彼にも平等な気配りを見せるところに<ワンちゃん>のプロ根性を感じる。
日本語表現に不自然なところはあるものの、彼女の観察眼はそういう瑣末なことを忘れさせてくれるほど冴え渡っている。

これから結婚しようとする人たちの様々な彩りに対して、<ワンちゃん>の家族の色はどんよりとしている。義兄や夫には何の装飾もない。彼女にとってこの環境はキツイはず。心に渦巻く濁流をひた隠し、ポーカーフェイスを心がけているのだろう。ともかく<ワンちゃん>は体格とは逆に、太くたくましい。

姑にかけてあげる赤いストール。
結婚式で男性が着る真っ赤な衣装。
グレーの空間に、時折原色がはためいて、ドキッとしてしまう。

結局<ワンちゃん>自身に幸せはやってくるのだろうか。
土村さんはこのまま決まった相手と結婚してしまうのだろうか。
まさか前夫とドラ息子が日本には来るなんてことは… イヤな予感がよぎる。

本当の幸せとは?
人生とは?
その問いがずっと頭の中を駆け巡っている。

収録されたもう1篇の『老処女』でも、著者の鋭い眼が主人公の心をくまなく観察しており、共感、感嘆の連続だった。

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