三浦しをん『月魚』(げつぎょ) : 夢の国・亞洲文化宮

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三浦しをん『月魚』(げつぎょ)

20080404


出版社: 角川書店
種 類: 文庫
刊 行: 2006年7月(単行本は2001年刊行) 



<内容・あらすじ>
〈水底の魚〉
無店舗で古書販売をする瀬名垣太一と、老舗の古書店『無窮堂』の3代目店主本田真志喜<マシキ>。二人は古書業界で互いに協力し合う仲だ。瀬名垣の父はかつて古書業界で「せどり屋」と呼ばれ疎まれていたが真志喜の祖父に才能を見出され指導を受ける。太一と真志喜もそんな環境で共に育ち研鑽を積んできた。しかし太一は小学生の時、真志喜の父が廃棄と決めた本の中から偶然「幻の本」を発見。元々『無窮堂』に居場所のなかった真志喜の父は失踪する。太一は罪の意識を持ちながら常に真志喜のそばにいた。
そんなある日、大量の本を遺して亡くなった老人の家族から、瀬名垣に本の買取依頼があり、真志喜に応援を頼む。

なお他に瀬名垣太一と本田真志喜も登場する〈水に沈んだ私の村〉〈名前のないもの〉が収録。

<感想など>
夕闇に光る『無窮堂』の外灯と、瀬名垣がつけたタバコの火。冒頭にともるほのかな色合いが、これから始まるストーリーにいざなってくれます。
『無窮堂』の場所ははっきりしませんが首都圏の郊外でしょう。日本家屋のしっとりしたたたずまいや、緑溢れる庭園、そして美しい鯉が住んでいるという池の様子が、静謐な文章から流れ出てくるようです。
また古書店街のざわめきも胸に響きました。
神田の古書店街は好きで機会を見つけては足を運びます。独特の香りが漂う中、うず高く積まれた本の山に自分も入り込んでいるような感覚になりました。

2人の青年が古書に向き合う姿が魅力的です。
何年もの修行がものを言う古書業界。若者たちの仕事に対する情熱、挑戦、思い切り、判断力、口論が、全編に輝きを放っています。
年配の古書業者、本田翁や梅原翁は全く違ったタイプながら、若者を見守る姿が心に沁みました。
そんな中、あまり歓迎されない人間像して描かれる中高年たちに、不思議な存在感をおぼえます。
40代後半の槙原。
瀬名垣を「せどりの息子」とあざ笑う。でも瀬名垣の強い態度にはたじろいでしまう。眼の上のたんこぶを追い払おうとした行為も逆効果。仕事に対する焦りが全身からにじみ出て、気の毒な感じもありました。
真志喜の父親。
親孝行や子への愛情といった、人間としての気質が欠如しています。でもそうならざるを得ない背景を知るといたたまれなくなります。
『無窮堂』にいたのは男ばかり3人。彼には母親も妻もいない。父親は自分を通り越して孫に眼をかける。自分の存在を認めてくれる人のいない環境と、プライドをズタズタにさせられてしまったあの出来事。
再び姿をみせた彼の言動や態度は確かに褒められたものではなく、息子からきっぱりと拒否されたことにも納得です。でも彼の後姿はしこりのように残りました。

2人は出会うべくして出会い、互いに必要としあう関係です。
真志喜が父親との訣別を決めたとき。
彼が瀬名垣を「太一」と名前で呼んだとき。
瀬名垣が自分の店を持つと決めたとき。
そして大きな鯉が月に向かって飛び跳ねた瞬間。
いくつもの段階を踏んで2人が気持ちを確認していくところは秀逸です。

なお、〈水に沈んだ私の村〉は瀬名垣と真志喜の高校時代が一教師の目から描かれた話。この教師のときめきや驚きなど、心のざわめきが滑稽です。一方夏の太陽に向かってはじける若者の姿は限りなくまぶしく映りました。

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