藤原伊織『テロリストのパラソル』 : 夢の国・亞洲文化宮

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藤原伊織『テロリストのパラソル』

20080310

テロリストのパラソル
 出版社: 講談社
 種 類: 文庫
 刊行年: 2007年7月(初版は1995年9月)
 受 賞: 第114回直木賞 第41回江戸川乱歩賞 


<あらすじ>
バーテンダーの島田はアルコール中毒患者である。いつものように新宿の公園でウイスキーを飲んでいたとき突然爆発音をきく。彼は惨憺たる現場を眼にして逃げ出すが、ウイスキーの瓶に指紋を残してきたことに気づき愕然とする。死者の中に昔の恋人がいたことから、彼は真相の究明に乗り出した。恋人の娘松下塔子、元警官のヤクザ浅井、さらにホームレスの人々との関わりによって、島田は徐々に事件の核心に迫っていった。そして最後に驚愕の事実を突きつけられる。

<感想など>
なぜ主人公をアル中という設定にしたのだろう。最初抱いたこの疑問が後になって解けた。彼がこの病気を克服することに意義があるのだ。恋愛の場面はひとかけらも出てこないのに「恋の力」は伝わってくる、不思議な作品である。
さて、久しぶりに真犯人が最後までわからない物語だ。謎解きのほとんどは主人公島田の丹念な調査によるのだが、それまでの過程に緊迫感があってぐいぐいと引き込まれる。

20年前に突如として姿を消した恋人。彼女を忘れられずにいるバーテンダー。そして彼女もまた…。恋人の実像は現れないが、登場人物の間で交わされる話から少しずつ現実味を帯びていく。硬い筋書きの中に時折ロマンティックな風が吹きぬける。
母の真実を追究しようとする娘の凛とした姿がまぶしくて、それだけで彼女の目的達成が予感される。こういう人物は裏切られないだろうという確信が、読みながら芽生えてきた。

全共闘世代のことはわからない。その時代を永遠に引きずって生きる人々がいるということも自分には理解できない。伝わってくるのは彼らの限りなく純粋な気持ちである。テロのきっかけをごく小さな劣等感として描写しているが、当人にとっては人生における最大の問題だったのだ。繊細で傷つきやすく自意識過剰な、ごく普通の人物。時代がその<当人>を選び、特殊な世界に導いたとしか思えない。

物語ではいくつもの偶然が重なり合う。安易な偶然に興ざめしてしまうケースが多い中、この作品では全ての偶然に必然性を感じた。まるで<当人>の狂気があちこちに散らばるパーツを糸で手繰って引き寄せたかのようだ。主人公は現実の世界で生き、<当人>は非現実とも思える中で生きながらえてきた。同じ時代を生きた二人の運命に暗澹たる気持ちになる。
不遇だと思われた主人公にもいよいよ光が見えてくるのでは?そんな気配が心地よい。

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